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表 紙 説 明
秋元書房ジュニアシリーズ129
書 名:友  情
著 者:横島さくら子      さし絵:赤坂三好
初 版:S36.05.30
備 考:文庫版あり  秋元文庫ファニーシリーズ B14
 高校三年の愛読者が書いた長編小説 ここには大人の作家には書けない高校生活が描かれています。
著者は、現在高校三年生。この作品は著者が高等学校に入学した昭和34年4月、十五才の時から書き始め、同年の12月に完成したものです。「友情」は秋元書房の友の会の人によって書かれた初めての小説です。ここには転校してきた一女生徒をめぐっての微妙な男女生徒間の友情が明るく描かれています。

[この本が出るまでのいきさつ]
昨年(昭和35年)の夏のある日のことでした。秋元書房にお父さんに連れられた一人の女子高校生が訪ねてきました。おききすると神奈川県聖園(みその)女学院の2年生で17才、秋元書房の愛読者だそうです。横島さくら子さんというその高校生が、風呂敷の中から部厚い原稿用紙をだして「私の書いた小説です」といった時、あっけにとられました。400枚の長篇小説を書くということは作家でも並たいていのことではありません。
 少女作家現わるという期待のもとに編集部でその小説をまわし読みしましたが、まさに期待通りの作品だったのです。そこには現代の高校生活が描きつくされていました。
    主要人物の紹介は文庫版に掲載
  土村暁子の家族は、五月のある日、東京から海辺の街に越してきた。新しい家はちいちゃくて、それに隣の家との間隔が1メートルほどしかなかった。しかし、暁子はこの新しい家に満足した。なぜって、パパとママが思い切って、子供たちのために、二階の部屋を全部あてがってくれたからだった。
  妹の小百合は12才、暁子より三つ年下だった。パパは新聞社に勤めていた。そして、いつも帰りが遅かった。ママは若く、そして美しかった。
  二階には二つ部屋があった。八畳と六畳だった。六畳の部屋は陽がさんさんとふりそそぐし、たいくつな時は、窓をあけて、目にしみるような青い海を見ることができた。それなのに八畳の部屋は、隣の家にさえぎられて、太陽の光は少しも差し込んでこない。
  暁子の部屋は八畳だった。窓を開けると1メートル先に、隣の家の窓があった。彼女は古ぼけた机を、その窓辺におちつかせた。暁子にはちょっぴり冒険の心があったのだ。彼女は、隣の部屋の窓の所に男の子のらしい勉強机がどっしりとかまえてあったのを見たからだった。もし、隣の家に男の子がいて、その子がその机で勉強するなら、必ず私は、その子とお友達になってやろうと思った。
  暁子は、ふいと空を見上げた。朝の空は白く、そしてひんやりしていた。彼女はその広い空に向かってこうつぶやいた。
「今日からは、私の新しい人生が始まるのよ