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表 紙 説 明
秋元書房ジュニアシリーズ 87
書  名:私─わたくし─
著  者:西川澄子
表紙撮影:舟山 克   さし絵・カット:大倉道昌
初  版:S34.09.30
備  考:文庫版あり  秋元文庫ファニーシリーズ B10
『婦人生活』20万円懸賞小説入選作に加筆した長篇。発売前に東宝映画化決定の問題作
しかも、作者は、まだティーン・エイジャーのバリバリでこれがはじめての小説で、これ程面白く、鋭く、10代の夢を描いたものはないと評判です。

3人兄弟の末っ子で17歳。人一倍背が低く、アマノジャクで毒舌家で、お転婆で、およそ可愛いい娘には縁遠い存在である。 私は「ムコ」高二である。出歯でそばかす、その上ガリガリだが、おてんばは人一倍!
 姉の駆け落ちの手伝いに大ハリキリ、兄の失恋の真相にシンミリ、古木さんとの初ベーゼにドキドキ、初めてのビキニに母はビックリ。
表紙の写真 ―― K高原のキヤンプ地は、静かで美しいところである。青い草原に、2つのテントをはった。グループは、まず兄貴と、ふぐさん、青すじさん、スマートさん……私の8人。私は紅一点である。いや、そばかす斑点かもしれない……
    主 要 人 物
わたくし――私のニックネームは「息子」。それをもじって「ムコ」とも言う。3人兄妹の末っ子で17歳。人一倍背が低く、アマノジャクで毒舌家で、お転婆で、およそ可愛いい娘には縁遠い存在である。
父 ――会社の重役で、理想家肌の人物といわれている。父は、私と顔が合うと、すぐ、もっと女らしくしろという。私はこの女らしくという言葉がきらいだった。
母 ――私の「ムコ」というニックネームに一番ショックを受けたのはご本人にあらず、明治生まれの母だった。なぜなら母は私を姉同様に、女らしい娘に育てるのが望みだったからだ。
姉(直子)――勤めに出ている姉は、目下恋愛中らしい。はっきり聞きただしたわけではないが、私の第六感にはそううつった。なぜなら日に何度も鏡をのぞく。眼の大きい姉は、いっそう大きく、美しく見せようと、アイラインを入れたり、まつげを器具でひっくりかえしたりしている。
兄 ――大学に行っている兄は、私に甘い。そのせいか私も兄が一番好きである。
古木利也――兄の友達の大学生。私は、彼と夜道を一緒に歩いたことがある。彼が無口だということは兄から聞いていたが、あんなに無口だとは思わなかった。私はそっと彼の横顔を見た。鼻筋ががっしりと通り、油っけのない毛髪が夜風にさらさらとゆれていた……。
   この小説について
 この小説の主人公はムコというニックネームで呼ばれている17才の少女です。ムコは3人兄妹の末っ子で、人一倍背が低く、自分では、お転婆で、毒舌家で、アマノジャクで、およそ可愛いい娘には縁遠い存在であると信じています。
 ムコには、会社重役の父と、理解のある母とね姉と兄がいます。姉はムコとはまるっきり反対の性質で、女らしくて、美人です。大学生の兄は、ムコの一番の理解者で、ムコもこの兄が一番好きです。
 ムコはこれらの家族に見まもられながら、一日一日大人に成長していきますが、評論家の古谷綱武先生は、その生活ぶりをご覧になって、ムコに次のような手紙を書かれました。
「ムコ、きみはさ、いかにもくったくがないようで、にぎやかで、ああいえばこういう、こういえばああいう、罪のない、へらず口の口達者だけど、その心のシンには、たいへんさびしがりやのものを、いつも持っているムスメなんだね。ムコ、キミ、自分で、自分をそんなふうに考えたことはないかい? キミはほんとは愛情に飢えている娘だと思う。そういってわるければ、たえずつよく大きい愛情を求めつづけている人なんだね。それがキミの生活のなかのいろいろな行動のもとになっているもののようにぼくはかんじる。もっと別ないいかたをすれば、キミが愛しているキミ自身というものを、もっともっと、みんなにわかってもらいたい、という願いを、心の底につよくひそませているムスメだと、ぼくは思うんだがな。わかってもらいたいという願いは、人から愛されたいという願いだ。もちろん、キミのそれは、素直で、清潔で、美しい願いといっていいものだ……」