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表 紙 説 明
秋元書房ジュニアシリーズ106
書 名:美しき十四才
原 題:Like a Red, Red Rose
著 者:フローレンス・マスグレイヴ
訳 者:山本恭子
初 版:S35.06.15  再版:S38.09.10
備 考:翻訳権所有
   『 美しき十四才 』 に つ い て
 トニは14才の女子学生。成績は優等である姉にはおよばないが、先生や友だちからも愛され、スポーツもうまく、両親からはなんでも買ってもらえる恵まれた環境に育ってきた。ところが、このごろ彼女は、なぜか理由はわからないが、好きでもない男の子とつきあって、ハート型のロケットをもらって友だちに見せびらかしたり、両親や先生にも反抗したくなってきた。しかし、「泊まりこみパーティ」「万聖節ダンス」「演劇発表会」など数々の学校の追われているうちに、しだいに反省するようになってきた。
 そんな時、クラスのヘンリーという学者タイプの男の子と仲良くなり、はじめて胸のときめく思いをするようになった。だが、彼とのはじめてのデイトだというのに、ママがいっしょについて行くといいだしたのだ。
 監視つきのデイトなんてあるかしら、トニはすっかりふくれしまった………
    主 要 人 物
トニ・メイヤー ――― 背が高く、金髪で青い目の14才の少女。ジュニア・ハイスクールの生徒で、画や写真術に才能を見せる。純真で明朗、思いやりが深い。
リザ・メイヤー ――― その姉の高校生。美人で頭がいいが、男の子にもてるので、ちょっと移り気のハイティーン。
ナンシー・アン ――― トニの親友。ふとって健康でおしゃべり好きの陽気な少女だが、ボーイフレンドのできないのが唯一のなげき。
ヘンリー・ピアスン ― トニの同級生ですごく頭のいい優等生。無類の読書家で変人あつかいをされながらもクラスの人気者。
テッド・フォスター ―― 西部から来た同級生の男の子で、礼儀正しいが内気。乗馬の上手なハンサム・ボーイ。
ジェニィ・メドウズ ―― 貧しい同級生。無口で無愛想だが、演劇の才能があり、トニの親切で、いきいきと美しくなる少女。
テンプル先生 ――― ひとり暮らしで犬を飼う国語の女教師。見かけによらず物わかりがよい親切者。
メイスン先生 ――― 演劇クラブの指導をする高校の先生。トニの画才と演劇的な才能を大いにかってくれる。
ボ ン ド 氏 ―――― 教会の若い牧師で、「青年グループ」を指導。トニに精神的な感化をあたえる。
   巻 末 解 説 よ り
 『美しき十四才』のヒロインのトニ・メイヤーは、ジュニア・ハイスクール(わが国では中学に相当しましょう)に通学する少女です。アメリカの少年少女たちは、一般にわが国の年齢層よりいくらか成育が早いといわれていますが、ここでは、トニの十三才の初秋から十四才の春までの生活がくりひろげられています。この年ごろは、ちょうど自意識もなにもなく夢中ですごした幼女時代を脱して、ようやく人間として、また一人の女性としての自覚を持ちはじめる時期で、それにともなういろいろな新しい人生経験に目を開き、あるときは大いに混乱を感じ、またあるときは生きることのよろこびや、人間としての尊さに大いに自覚と自意識の心をたかめる時代でもありましょう。ですから、人間構成の過程としては、ハイティーンよりも、このローティーンり時期こそ、もっとも大切なのではないかと思われます。
 作者のフローレンス・マスグレイヴ女史がそうしたローティーンの持つ人生的な意義を実に明確に把握していらっしゃることには敬服いたしました。主人公トニやその周囲をとりまく少年少女たちの感情生活を、実にわかりやすく明快に描写し、トニが一つ一つの経験によって、しだいに一人前の人間へと、すなおに、正しく、かつ純粋に育ってゆくさまが、実にたのしく描かれています。
 トニは、美しい金髪を、時には長く肩にたらしたままの、青いひとみのやせっぽちの少女です。手足はのびるばかりで、まだなやましい肉体美や胸のふくらみをほこることにはちょっと間のある初々しい少女です。学校の成績があまりかんばしくないのが唯一の悩みの種で、このため、頭のよい女子高校生のお姉さんリザから、いつも、からかわれたり、いじめられたりで二人のあいだに姉妹喧嘩の絶え間がありません。しかし、トニは、そんなことですこしもいじけたりはしない少女です。彼女はお父さんっ子で、いつもパパのメイヤー氏が彼女の肩を持ってくれるからです。
 よく、子供の教育には家庭的な環境がなにより大切だといわれていますが、ここに描かれたメイヤー家の家庭の雰囲気を見ますと、この両親の健全さと理解深さとがあってこそ、子供たちが、すなおに、まちがい少なく、しかも人間としてのあらゆる幸福を享受しながらも、立派な社会人として育ち得るのだと感ぜずにはいられません。
 しかも、この両親とリザとトニ姉妹とのあいだに、それぞれ年代の相違からくる溝がはっきりと存在しながら、どちらからも相手の主張や考え方をちゃんと認めあい、ゆずるべきはゆずるといった二つの世代のありかたが、ここでは、ユーモアたっぷりに、ほほえましく描かれています。メイヤー夫人の機知をもってたくみに二人の娘たちを操縦してゆく母親ぶりも立派なものだと思います。
 ここで一番主題となることは、やはりトニがテッド・フォスターとヘンリー・ピアスンの二人のボーイ・フレンドにいだく感情の移り変わりでしょう。トニは最初からヘンリーにはげしいあこがれをいだいているのですが、彼は頭脳明晰、研究心が強く、大変な読書家、暇さえあれば本を読んだり、好きな鉄砲のコレクションと研究に夢中になっていて、女の子には目もくれないといった様子なので、トニは、彼と親しくなるなどということは、とてもかなわぬ悩みだとほとんどあきらめているのです。そこへ西部から移ってきたテッドと、ピクニック以来親しくなり、彼の内気な性格にあたたかい理解と同情を感じ、彼がかけてくれといったハートの片割れも首にかけてやるのです。もちろんトニには、自分にステディの相手があるということがうれしくもあり、ちょっと得意でないこともないのですが、彼女の場合には、テッドの彼女への好意を、むげにしりぞけては気の毒という思いやりが大いにあるのでしょう。
 けれど、彼がどうやら自分よりも、自分の親友のナンシー・アンとほんとは気が合い、よい友だちになれそうだと知った時、いさぎよくこの友情をゆずります。これは彼女が恵まれない級友ジェニィに示した友情と同じように、トニがいかに心根の優しい少女であるかということを物語っていて、ほほえましいところです。
 その代償のようにして、彼女は、思いもかけず、あこがれのヘンリーから友情の手をさしのべられますが、彼女はこうした幸福を予期して、テッドとナンシー・アンの友情をとり結んでやったのではないところに、さらにこのお話の美しさがあるようです。
 そのほか、トニの演劇クラブでの活動、写真技術を活用してのケア物資への貢献など、遊ぶこと以外に、実質的な生活活動のなかにトニが積極的な意欲を示し自分の天分を生かしてゆく点、そして、そうした少女たちの意欲をあたたかく育て、奨励するまわりの先生や家庭の人たちの態度にもうれしいものがあります。
 明るい善意の世界、そこに溌剌とした精神をもって、育ち生きてゆくトニの姿に、皆さんもきっと心からの拍手をおくってくださることでしょう。

訳   者