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表 紙 説 明
秋元書房ジュニアシリーズ100
書 名:卒業舞踏会
原 題:SENIOR PROM
著 者:ロザモンド・デュ・ジャーディン
訳 者:大久保康雄
初 版:未入手  再版:S38.01.30 S39.08.30
備 考:翻訳権所有
   『 卒業舞踏会 』 に つ い て
 卒業舞踏会は、アメリカの高校生にとって、最大の行事です。大げさに言えば、みんなそのために高校に入ったようなものなのです。入学したその日からお小遣いをせっせとためて、舞踏会に着て行くドレスを買うもの、パートナーをきめるために、勉強そっちのけで血まなこになるもの等、さまざまです。
 この小説の主人公マーシイは高校最上級生です。あと数週間で卒業舞踏会だというのに、パートナーの候補が二人もいて、すっかり迷ってしまいました。ブルースはハンサムでユーモアのある青年、その上黄色の自動車まで持っています。もう一人のリックは、はにかみ屋で、女の子の前に出ると、まっ赤になってしまいます。その上ダンスも出来ないのですが、純真で誠実です。思いあまったマーシイは、親友のリズのところに相談にいきましたが、いたずらに何時間もの大議論になるばかりでした。マーシイは誰と舞踏会に行ったでしょうか?  卒業舞踏会の夜に結ばれた淡く美しいはつ恋物語。
    主要人物とアメリカの高校生用語
マーシイ・ローデス(マース)この物語の主人公。ウェストフィールド高校の最上級生。
ケ ン ・ ロ ー デ ス ―― マーシイの兄で大学生。
スティーブ・ジャドソン ― ケンの小学校時代からの親友。
ブルースダグラス ――― マーシイの同級生。ハンサムでじょさいのない青年。
リズ・ケンダル(リジー) ― マーシイの一番仲良しの少女。
カルヴィン・タットル ―― マーシイの母が勤めている病院の患者で、身よりのない孤独な老人。

プ  ロ  ム ―― 卒業記念ダンスパーティのことで、これは、アメリカの高校生にとって最大の行事。
ス テ デ ィ ―― デイトの相手を、誰か一人に決めること。ステディのあいだがらになると、その二人は、どこへ行くにも一緒です。友だちも、それを認め、新しいデイトの申し込みをしなくなります。
ダブル・デイト ―― 仲良しの2組の男女が、4人で一緒にデイトすること。
   巻 末 解 説 よ り
 この小説もまた『としごろ』『美しき惑い』と同じようにマーシイローデスを主人公にした。物語です。この物語に登場するマーシイは、シカゴ郊外のウェストフィールド高校の最上級生。彼女の家は、アメリカの地方都市にみられる典型的な小市民の家庭で、その生活の実態は日本のわたしたちとあまりかわりはありません。映画や雑誌で見るアメリカの生活とはかなりちがっていて、はるかに地味でつつましいものです。
 マーシイにはケンという兄がいますが、ケンは都会の大学で寄宿生活をしているので、いまは両親と三人でくらしています。彼女はとりわけ美人でもなければ、人気者てもありません。人をおしのけてまで自分の幸福をつかもうとするような性格でもありません。そういう性格が幸いして、この物語のようなすばらしい事件が起こったのでしょう。
 彼女にはリックとブルースという二人のボーイフレンドがいます。リックは、なにごとにも、ひかえめな青年で、自分の思ったみとも、あまり口に出さないたちです。マーシィは、リックを好きなことは好きなのですが、異性として意識したことはありません。困ったときに役に立つ便利な友だちぐらいにしか考えていないのです。一方、ブルースは、ハンサムで、たのもしく、その態度もじょさいがありません。マーシイはブルースとデイトするときは胸のときめく思いがします。
 そして、二人とも時を同じくして自動車を買いますが、リックの車は、アルバイトのお金をためて買っただけあって傷だらけの中古車ですが、医師の父からプレゼントしてもらったブルースの車はスマートな新車です。
 マーシイは、車を手に入れた二人から、しばしばデイトにさそわれますが、皮肉にもデイトの日にちがよく重なってしまうのです。そして、リック誘いをことわったときは、おそらくほかにガールフレンドのいない彼のことを思って、やるせない気持ちになります。また、ブルースをことわったときは、彼がおこって、二度と誘ってくれないのではないかと心配になります。
 学校劇や修学旅行が終ると、高校生活最大の行事ともいうべき卒業舞踏会が近づいてきます。しかし、マーシイは、憂うつになるばかりでした。というのは、会場の装飾委員の一人でありながら、まだパーティでのパートナーが決まっていないからです。リックはダンスができないし、ブルースはいっこう申し込んでくれる気配がありません。彼は女生徒のなかで一番人気のある男性だからマーシイなんか相手にするはずがないのです。いつもはデイトの約束がダブって、ことわるのに苦労するというのに、かんじんのときには、だれも誘ってくれないとは、何という皮肉でしょう。マーシイは、ただ当惑するばかりでした。それからのいきさつは本文にゆずるとして、こうした経験を重ねることによって、彼女が大きく成長していったことは確かなようです。
 愛情について、マーシイの母は「だれにしても、本当にあなたが好きだったら、その人は、自分よりあなたの幸福を考えるでしょう」と言って諭しますが、おとなに一歩近づいたマーシイは、真実の愛情とはどういうものであるかを、はじめて知ったのでした。《後  略》
訳   者