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表 紙 説 明
秋元書房ジュニアシリーズ93
書 名:ハンクの高校時代
原 題:A GIRL CALLED HANK
著 者:アミーリア・エリザベス・ウォールデン
訳 者:大門一男
初 版:S34.12.15
備 考:翻訳権所有
   『 ハンクの高校時代 』 に つ い て
 ハンクは高校バスケット部のキャプテンだが、冬のシーズンのはじめにコーチの先生が変ってからはすっかりユーウツになってしまった。新任のコーチ、マッキー・ドーン先生は以前アマチュアテニスの選手だったが、右手と指2本を傷めたので選手生活をあきらめた人で、そのためか暗くて冷い性質で、生徒達にはきびしすぎ、チームに対しても、前のコーチの技法を改め、理づめで困難なメソッド(方法)を強制した。そのため、チームは混乱して対校抗試合にもかってない不覚をとるようなことになってしまったのだ。ハンクは、キャプテンの立場から色々マッキー・ドーン先生に意見を言ったが、先生は彼女の言うことに耳をかそうとしなかった。先生と彼女は性格的にも合わないらしいのだ。
 そのころ、ハンクは同級のグレッグという青年と仲が良かった。彼も深くハンクを愛し彼女の出る試合は必ず応援に行っていた。
 だが、バスケット部の有力なメンバーで、ハンクの親友のフランシーは二人の仲を決して快い目では見ていなかった。フランシーは前からグレッグとデイトしたいと思っていたからだ。フランシーは、ハンクが試合で失敗する日を待っていた。コーチの先生にとりいって、自分がキャプテンになろうと思った……そして、
    主 要 人 物
ハンク(ヘンリエッタ)・バクスター ―― この物語の主人公の少女。ブライト・ヘイヴン高校の最上級生で、バスケットボール・チームのキャプテン。明朗で実際的な頭脳に富み、将来は建築家を志す。スポーツ一家で、彼女の4人の兄もご飯よりバスケットが好きだというほどである。
ヘンリイ・マクニール(愛称グランプ)ハンクの祖父で彼女のよき相談相手。昔は有能な技師で多くの新案特許を持ち、今も納屋の一隅に工作室をつくっている。
グレッグ・サザーランド ――― 高校生。「エンタープライズ」誌の編集担当。長身の知性的な男の子でハンクのボーイフレンド。父は退職大学教授。
マ ギ ー ・ ド ー ン ―――― 新任の高校体育教師。バスケットのコーチとなり、ハンクと意見対立する。もとテニスのアマチャー選手でグレッグの父の教え子。
フランシー・ウェーラー ――― ブロンドの髪をした美人。以前はハンクの親友だったが、今はよそよそしい。バスケット・チームの一員。
キ ャ ロ ル ・ ヨ ー ク ――― チームの一員。陽気な性格でハンクの信頼する友。
サ リ ー ・ オ グ デ ン ――― チームのマネージャーをしている少女。
ク ラ ラ ・ バ ク ス タ ー ―― ハンクの長兄ラッセルの妻。ベスト・ドレッサーとして有名。
サ ム ・ テ イ ラ ー ―――― ハンクの同級生の男の子で、 幼いときからの遊び友だち。今はキャロルとデイトしている。
   巻 末 解 説 よ り
 本書の原題は「ハンクと呼ばれる少女」(A Girl Called Hank)といいます。ハンクというのは男の名前なので、これは一風変った題名と言うことができるでしょう。
 バクスター家の4人の兄弟は、いずれもすぐれたバスケットボールの選手で、5人目の弟が生れたら、一家でチームを組織しようと期待していたところに女の子が生れてきたので、みんながっかりしてしまいました。この子には産まれる前から、お祖父さんの名をとってヘンリーと命名するてはずになっていたのですが、あいにく女の子だったので、お母さんはヘンリーの女名前であるヘンリエッタと名づけましたが、4人の兄たちはせめてもの腹いせに彼女をハンクという男名前で呼び、そのほかの名を絶対に呼ばせようとしなかったのです。
 ハンクはようやく立って歩けるようになったころから、兄たちにボールを持たされ、すこし大きくなってからは納屋のコートでバスケットボールを仕込まれました。この物語に時のハンクは17才で、ブライトヘイヴン高校の3年生、女子バスケットボール・チームのキャプテンをつとめています。
 彼女はチームのメンバーのあいだに信望があり、そのチームは郡で最強を誇る女子バスケット団でしたが、美しい体育教師マギー・ドーンがこの高校に赴任していらい、急に他校との試合に負けはじめました。この原因は、マギー・ドーンの生徒たちに対する冷たくきびしい態度と、新しい戦法を頭から生徒に押しつけようとするやり方にあったのです。このためハンクはチームのキャプテンとして苦しい立場に立たされて悩みますが、長い人生経験をつんだ祖父の暖かい指導で、やがてこの体育教師と心が通じるようになり、のちにハンクがスランプにおちいったときには、かえってマギー・ドーンに励まされて、最後の対校試合に優勝します。
 ここには、団体競技の一員、ことにキャプテンとして活躍する者の、責任と自覚と愛情の問題がじつによく描かれていて、読者のみなさんの共感をさそうことと思います。ハンクの生き方、そしてまたグランプの生き方から、みなさんが将来人生に資する何かを汲みとっていただければ、この本を訳した私はたいへんうれしく存じます。

 作者アミーリア・エリザベス・ウォールデン女史は、ニューヨーク市に生れ、幼時をそこですごしました。のちに彼女の一家はコネティカット州に移り、彼女はノーウォークというところのハイ・スクールを出、それから州立師範学校をおえて、さらにコロムビア大学の教育学部に学んで、そこで学位を取りました。その後、アメリカ演劇アカデミー(アメリカン・アカデミー・オブ・ドラマチック・アーツ)にも学んで、そこを卒業しています。
 女史は、ハイスクール在学時代から演劇に打ち込んで、脚本を書き、いくつかの劇をプロデュースしていましたが、のちにコネティカットのハイ・スクールで演劇の教師をつとめたこともあります。
 この本は1951年3月に、女史が書いたものですが、その前年の冬、コネティカット州ウェストポートのハイ・スクールの女史バスケットボール・チームとシーズンのあいだじゅう行動を共にし、そのチームが他校と試合をしに行くときは、専用バスで彼女らといっしょについて歩きました。
 そしてシーズンのおわりごろには、少女たちは女史のむかしからの友だちのようになったそうです。そして女史は、試合に勝つことよりも──試合に勝つことはもちろん大切ですが──もっと大切なことを、彼女たちのゲームから教えられたと述べています。《後  略》

   1959年12月
大 門 一 男