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表 紙 説 明
秋元書房ジュニアシリーズ92
書 名:はつ恋ノート
原 題:Wedding in the family
著 者:ロザモンド・デュ・ジャーディン
訳 者:山本恭子
初 版:S34.11.30
備 考:翻訳権所有
   『 は つ 恋 ノ ー ト 』 に つ い て
 姉の結婚式が終ると夏休みになった。15才のミッジは親友のジュディや両親と一緒にグリーン湖のほとりになるコッティジへ避暑に行った。そして、たちまち、そこへ来ている陽気なティーン・エイジャーの仲間に入って、愉しい毎日を送った。ミッジは湖畔のホテルでアルバイトをしている高校4年のトムと知り合い、しだいに深い友情をおぼえるようになるが、彼女が本当にひきつけられているのは、水難救助員で17才のアレックスだった。だが彼のまわりには、いつも女の子たちが群れをなしているのだ。ミッジはただ遠くから彼を想っているだけだった。ところが、ピーチ・パーティ・クラブの「真夏のダンス・パーティ」に思いがけなく、アレックスの誘いをうけた。彼女の歓喜は絶頂に達し、まるで夢のようだった。しかし、アレックスが彼女を誘った目的は別にあった。そのわけを知った時、ミッジはすっかりがっかりしてしまった。
 秋になって避暑地を引きあげ家に帰ったが、忙しい合間合間にも想いだされるのはトムのことだった。毒舌家でしょっちゅうミッジを怒らせたものだが、今では彼の好意と友情ばかりが懐かしく感ぜられるのだ。そんなある日………
    主 要 人 物
ミッジ・ヘイドン ――― この小説の主人公。4人姉妹の末っ子で15才。背が高く、明るくて可愛らしい少女。
トベイ・ヘイドン ――― ミッジの姉。4年間の大学生活を終って帰省し、やがて、婚約中のブローズと結婚式を挙げる。
ブローズ・ギルマン ―― トベイの婚約者。化学専攻の大学講師。
ジョニー・ランダル ―― ブローズの大学時代のルーム・メイト。長身で魅力的な男性。
ジュディ・アレン ――― ミッジの親友。
トム・ブルックス ――― グリーン湖畔のホテルでアルバイトしている高校4年生で17才の青年。
アレックス・グレシャム ― グリーン湖で水難救助員をしている17才の青年。
ボブ・ピアスン ―――― ミッジの幼いころからのボーイフレンド。
ロジャー・クレイトン ―― グリーン湖で数年前からミッジと知り合いの青年。彼はジュディと仲良くなる。
   巻 末 解 説 よ り
 これまでいろいろとジュニア小説を読んだり訳したりしてきましたが、なかでもこのロザモンド・デュ・ジャーディン女史のものは大変すぐれていると思いました。お話の構成の面白さ、作中人物のそれぞれの個性のいきいきとしている点、いかにもジュニア小説らしい活気にあふれていて、十代の少年少女の気持ちを、私のような年代のものにまで、大変よくわからせいくれます。
 この『はつ恋ノート』は数多いジャーディン女史の作品の中でも、最も新しいものの一つです。これまで訳されたものでは、トベイ・ヘイドンを主人公にしたトベイ≠烽フ(『十七才のデイト』『クラス・リング』『ボーイフレンド』)と、パムとペニーの双児の姉妹が主人公となっているもの(『双児の女子大生』『ダブル・デイト』)の二通りにわかれていますが、『はつ恋ノート』は、トベイものの続篇とでもいうのでしょう。トベイの結婚式にはじまってはいますが、こんどは主人公として、これまでトベイ≠烽フではまだほんのいだずらな子供で、大人あつかいされたことのない末娘のミッジが新しく生育して登場してきます。
 これまでトベイ≠烽フを愛読された方たちはご承知のことと思いますが、ヘイドン家には4人の美しい娘たちがいます。父親はセールスマンをする人、ユーモアを解する温厚な中年紳士、母親は家庭的であたたかく、娘たちの若い気持ちもよく理解する中年女性です。そのあいだに生れ、育てられた4人の娘たちのなかで、長女のジャネットは、土木建築技師に嫁いですでに腕白ざかりの男の子が2人もあり、カリフォルニアに住んでいます。次女のアリシアは姉妹のなかで一番の甘ったれ娘でしたが、これも町の百貨店主の息子で、エッジウッド病院に勤めるお医者さんと結婚して、ちかく赤ちゃんが生れようとしています。三女のトベイは、ながいあいだのボーイフレンドだったプローズ・ギルマンと、町の教会で結婚式をあげるばかりになっています。ブローズは、トベイとは高校時代、いやもっと前からの仲よしでしたが、2人がお互いのゆるぎない愛情をたしかめ合って結婚にいたるまでにはいろいろの波乱がありました。それがトベイを主人公にした前に挙げた3部作の小説に小説に描かれているのですが、ついにその結婚の日はやって来たのです。
 そのあいだに、四女のミッジは、15才を迎え、トベイの結婚式には一人前あつかいされて花嫁付添人(ブライズ・メード)のひとりにさえ選ばれたのですから、もうすっかり有頂天です。親友のジュディ・アレンとは毎日会っておしゃべりをした上、それでも足りずに電話でながながと事の逐一を報告して、彼女の新しい経験とその喜びをわかち合っているというありさまです。
 2人の話題の中心は、もちろん男の子のことです。というのは、この結婚式には、花婿付添人(ベスト・マン)やアッシャーと呼ばれる案内係として、花婿ブローズの友人である青年たちが結婚式の出席のため、各地からエッジウッドの町へやってくるのですから、ミッジとジュディのあいだの話題はつきないわけです。それらの青年たちのあいだに、町の男の子にない新しい魅力と刺激を探し出そうというわけなのです。
 こうしてミッジは、ハンサムなショニー・ランダルの魅力のとりこになってしまいます。彼はブローズの親友ですからすでに20代の青年で、15才のミッジがいくら背のびをしてもつり合わないのですが、女性には愛想のよいジョニーが、ギルマン家のパーティでチヤホヤしてくれたのですっかり彼にお熱をあげてしまいますが、トベイの親友で美しいバーブが到着して、すっかり彼女にジョニーの関心をうばわれ、ミッジはペシャンコになってしまいます。
 ミッジのお母さんは、末娘のそうした姿をじっと見まもり、彼女のうちあけ話をきいて、年上の男性へのあこがれは、少女が子供から大人への成育期によく体験するもので、彼女たちの早く大人になりたいと願う願望の一つの現われだと断定を下して、淡い失恋を味わったミッジの苦い気持ちを明るくしてくださいます。つまりミッジも、これで思春期の一つの宿題を卒業したわけなのです。
 それからたのしい夏休みがやって来て、ミッジは親友ジュディを誘い両親と一緒にグリーン湖のほとりのヘイドン家の山荘へ避暑にゆきます。ここでミッジは再びレックス・グレシャムという美少年に心をひかれるのですが、最後には彼に幻滅を味わい、トム・ブルックスという大変誠実で機智にあふれたボーイフレンドを心の友として得ることになります。この後半が、ミッジの新登場にふさわしく彼女の独壇場です。いずれにせよ。ジャーディン女史は、これからもミッジの心の成長のあとをたどって、彼女とトム、それから彼女の家族や町の友人たちとのつながりがどのように発展してゆくかを描いて行かれることでしょう。そうした、女史の新著のなかに、私たちは更にミッジの成長してゆく姿を見たいものだと思います。

   1959年11月
山 本 恭 子