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表 紙 説 明
秋元書房ジュニアシリーズ81
書 名:口笛吹けば
原 題:LAUTA MANCIA
著 者:M・T・キエーザ
訳 者:C水三郎治
初 版:S34.07.10
備 考:翻訳権所有
     映画「口笛吹けば」(1956年イタリア)のオリジナル・シナリオ
     からの小説化か、この著者によるものが原作なのかは秋元版
     その他ネット上の情報からは、確定できませんでした。
     主演:シルヴァーノ・オルランド
     監督/脚本:ファビオ・デ・アゴスティニ
     『口笛吹けば』について
チータはとても利口な犬です。ご主人はりっぱなお邸に住む若い奥さんで、とても可愛がってくれました。ところが奥さんに赤ちゃんが生れてからというもの、ちっともチータをかまってくれません。チータは決心を固めました。よし、こうなったら家出だ……。チータは街へさまよい出ました。
 チータは旅の芸人に拾われました。でもチータは何の芸もできません。集まったお客の前でしくじってしまい、さんざん打たれたうえ追い出されてしまいました。
 また放浪の身の上となったチータは住み慣れた街へ戻って行きました。そこへ見慣れた主人の車が走って来たのです。チータは懸命にその後を追いかけましたが、精魂尽き果てて泥まみれとなって河原に倒れてしまったのです。
 ふと気がつくと、チータの目の前には一人の可愛い男の子が立っていました。元気を取り戻したチータは、モスカというその男の子すぐ仲良しになりました。チータはモスカの家に連れて行かれました。しかし、家族の者はあまりいい顔をしません。モスカだけがチータを可愛がったのです。
 ところがある日のこと、チータは犬殺しに捕まってしまいました。しかも、チータを取り戻すには5000リラのお金が必要なのです。貧乏なモスカの家では5000リラのお金は大切です。お金がなければチータは殺されてしまう。よし、泥棒してやろう、とモスカは決心しました………
裏 表 紙 巻頭ページ( 映画のシーンからのカット集・抜粋 )
    主 要 人 物
モ  ス  カ ―― 本名ミケーレ。生まれつきのチビで、モスカ(蠅)というあだ名で呼ばれる、大きな目をした感受性のするどい孤独な少年。
チ  ー  タ ―― グレートデーン種の純血の雌犬。
アドリアーナ夫人チータの元の飼い主で、金持ちの美しい婦人。
エツィオ ――― モスカ少年の兄。21才の青年。
カルロッタ ―― エツィオの新妻。
カンディダ ―― モスカ少年の姉。12才。
おばあさん(エミリア)モスカ少年のおばあさん。リューマチを患っている。
    巻 末 解 説 よ り
 この物語には、チータという老犬と、モスカという少年の愛情が描かれています。チータは、金持ちの大きな屋敷に飼われていて、なに不自由なく暮らしていたのですが、たまたま、そこの奥さんに赤ちゃんが生れたため、誰からも、かまってもらえなくなります。今までチータにそそがれていた愛情が、赤ちゃんにみな奪われてしまったわけなのです。チータは、はじめて孤独というものを味わいます。教会の前で、主人の自動車から置き去りをくって、放浪の生活をはじめてからは、ますます孤独になっていったわけです。
 一方、モスカも孤独な少年でした。彼は、近所の悪童連中から、いつも意地悪をされ、仲間はずれになっていました。家も貧しく、暗い家庭でした。家族の者は、生活に追われ、幼いモスカの相手になってくれません。
 野良犬となったチータは旅芸人に拾われたものの、芸ができないために追い出され、たまたま通りかかった主人の自動車を追いかけ、ついに力尽きて、川原に泥まみれになって倒れてしまいます。そして、モスカと知り合いますが、その時から、チータとモスカの間には友情が生れてきます。孤独な者同士が、かたく結ばれたわけです。
 モスカは、もう孤独ではありません。モスカは多感な少年が抱いている夢を、チータに語ります。それは、今までだれも理解してくれなかった少年の夢であり、詩でもあります。主人の家を出てから、いためつけられ、孤独の悲しさを、いやというほど味わったチータも、はじめて愛情の温かさに触れたわけです。二人(?)の間には、もはや、何者の力をもってしても、絶ちきることのできない愛のはずなが結ばれました。
 世の中は、美しいものばかりではできていません。チータとモスカを囲む小さな世界にも、それを利用して、金儲けをしようとする人がいたりします。芸人の女房も、その一人です。彼女はチータが、その役にも立たないとわかると、残酷な鞭をあたえて、追い出してしまいます。モスカの兄夫婦も、チータに賞金がかけられていると知ると、二人(?)の間を裂いても、チータを元の持ち主に返そうとします。この物語にはこの二つのこと、美しいものと、俗悪なものとの対照が、きわめて、あざやかに描かれています。
 最後に、チータは、金持ちの主人のもとを去ってモスカのところに行こうとします。この物語は、読む人の誰もの心もしめつけずにはおかない、愛の讃歌をうたいあげたものです。
 忠犬ハチ公の話とか、南極でのタロー、ジローの話、あるいは犬を題材とした小説などたくさんありますが、犬ほど、人間の愛情を敏感に感じて、受けつける動物はありません。みなさん方の中にも、犬を飼ったことのある人が、たくさんいると思います。一度犬を飼ったことのある人なら、チータの気持ちも、モスカの気持ちも、二人(?)の愛情も、みな思い当たることでしょう。