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表 紙 説 明
秋元書房ジュニアシリーズ70
書 名:三人姉妹
著 者:中村八朗
初 版:S34.04.05  再版:S38.03.30
備 考:表紙の人 星 輝美(新東宝)
   『 三人姉妹 』に つ い て
 鎌倉の海近くに住む尾形家には三人の娘がいた。長女の真弓は短大を出て横浜の商事会社にタイピストとして働いている。次女の美保は高校2年生で明るくて清潔な娘である。この小説の主人公で、立体美術デザイナーを夢見て、将来は美術学校へ行きたいと思っている。末娘の陽子は、両親が男がほしいと思っていた時に生まれたせいか、性質が男のようで、野球が好きなうえ、柔道は町道場に通って、3級の腕前である。
 この三人姉妹のお父さんの京太氏は商事会社を停年で退職し、いまは保険の外交をやっている。そのため家の中は火の車だ。お母さんの咲子さんは娘たちのとってはやさしいお母さんだが、古い考えのため、いつもブレーキ役になっている。尾形家にはこのほかに静香というおばあさんがいる。がんこで、ぜいたくで、花造りをやっている。
 真弓には、両親に内緒の恋人がいる。家の事情を考えると、いま会社をやめて結婚するわけにもいかない。そのせいか、彼女はこのごろヒステリックだ。美保は高校を出たらすぐ就職するようにいわれてユーウツである。陽子は高校進学の勉強をしているが、家のことを考えると、やはりユーウツでそのウサばらしにますます柔道の練習にはげんでいる。
 この小説は、ある春の夜の事件から始まる。電車の中で美保は不良にからまれてしまった。その時彼女を救ってくれたのは同じ高校の男生徒であったが、彼女はその生徒の名前も知らなかった……。
    主 要 人 物
尾形美保 ―― 尾形家の三人姉妹の次女で高校2年生。美しく、清純な少女。この物語の主人公。
尾形真弓 ―― 尾形家の長女。横浜の商事会社に勤めているタイピスト。冷たいところがあるため、妹たちにけむたがられている。
尾形陽子 ―― 尾形家の三女で中学3年生。おてんばで、明るい性格。柔道をならっている。
環  克彦 ―― 美保と同じ高校の3年生。美容院の一人息子で、少し不良じみている。
伊藤秀樹 ―― 尾形家の隣の家の長男で東大生。結婚もビジネスと考えるほど人生を割りきっている。
中原 マリ ―― 美保の親友で同級生。大きな洋菓子屋の一人娘で、わがままな少女。
津村少年 ―― 中学3年で陽子と同級。陽子と一緒に道場で柔道をならっている。家がまずしくて新聞配達をしている。
    巻 末 作 者 あ と が き よ り
 いつも小説を書き終ると、小説の中の主人公たちと別れてしまうのが寂しくてならない。今度の小説では特にその感が深かった。だから、この小説を書き終っても、美保や陽子や克彦の将来に幸が多いようにと、わたしは今も祈っている。
この小説では、一人の乙女が愛を知る過程を書いているが、一番大切なことは、愛が胸に飛びこんで来て、その愛がどんな作用をするものか、そんな微妙な所を読み取ってもらいたい、ということである。この小説は事件よりも、心理の方を主に書いているのはそのためである。
 これからの若い人たちは、大いにのびやかに自由にすこやかに成長してもらいたいと思う。そのために、大人たちに遠慮をする必要はないが、人生の経験の多い大人たちのアドバイス(忠告)は、けんきょな気持ちで聞いてもらいたいと思う。若い人といえば反抗とか抵抗とか、大人たちへの対立をすぐ考えたがる。しかし、若い人も、数年たてば、やがて大人になって、次の若い人たちからけむったがられる存在になるのだ。人生は順送りになるものである。若い人と、大人が仲よく手をつないで生きて行けたら一番いいのだ。
 わたしは、ここで、妙な忠告を若い人にしようと思っているのではない。わたしの大好きな若い生命が、すこやかに美しく伸び育ってもらいたいための願いを祈っているのである。
中 村 八 朗


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