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表 紙 説 明
秋元書房ジュニアシリーズ67
書 名:帆   柱
著 者:内村直也
表紙撮影:杵島 隆
初 版:S34.03.01  再版:S39.04.30
備 考:『帆柱シリーズ・三部作』の第一作
     紹介記事などによると、映画化の企画はあったようだが実現
     したかどうかは不明。キネマ旬報DBでも確認できなかった。
   『 帆 柱 』の表紙撮影エピソード  友の会ニュースより

 青い海にまっ白な帆、そして、その前に立った明るくて、溌剌とした少女。これは作者の内村直也先生が、『 帆 柱 』の主人公、御厨阿美(みくりや・あみ)を表象するものとして頭にえがかれたイメージです。『 帆 柱 』の表紙は、杵島隆先生に撮影をお願いしましたが、杵島先生は、内村先生のそのイメージを実現するために大苦心をされました。色彩効果をあげるために、スタジオ内で撮影することにしましたが、問題は帆柱を手に入れることです。撮影所の大道具や、芝居の楽屋を探しましたが、見あたりません。とうとう、ほんものの帆柱を、逗子の開成高校から借り出して使うことにしました。
    主 要 人 物
御厨阿美 ―― (みくりや・あみ)この小説の主人公。高校2年生。両親がいなくて、祖母と二人ぐらし。明るく、溌剌として、なにごとにも積極的にあたる少女
御厨  桂 ―― 阿美の祖母。御厨将軍の未亡人。
瀬尾藍子 ―― (せお・らんこ)阿美の同級生。
黒田葉子 ―― 阿美の同級生。父母の不仲が原因で、家庭教師の遠山と木更津に家出する。
児玉典子 ―― 名古屋にいる阿美の叔母。阿美はこの叔母がなんとなく嫌いであった。
鵜殿三郎 ―― 阿美と同じ高校の3年生で、水泳部のキャプテン。阿美たちの高校は終戦までは、男子部と女子部の校舎が別々に分離されていたが、戦後は同じ土地に男子部と女子部の校舎が建っている。
宇津見先生 ― 阿美たちのクラス担任の国語の先生。
    紹 介 記 事 よ り
 この小説の主人公、御厨阿美(みくりや・あみ)は、高校2年生でいきいきとした魅力のある女性です。その性質は決して均整がとれているとはいえません。自分のなかに矛盾するものを沢山もちながら、それと戦って生きていこうとする女性です。
 阿美はおばあさんと二人ぐらしです。阿美の同級生はほとんど両親がそろっていますが、彼女はそのことを別にうらやましいと思ったことはありません。同じクラスの黒田葉子は、父母の不仲が原因で、家庭教師と家出をしますが、その事件の解決に一番積極的に活躍したのは阿美でした。葉子のように理解のない両親がいるより、自分の方がどんなにさっぱりしているかわかりゃしないと思っているくらいです。クラスの中で阿美に一番親しくしているのは、瀬尾藍子です。しかし、阿美は、決断力がなくて幾分やきもち焼きの藍子をうるさく思うことが多いようです。その点、同じ高校の男子部で水泳部のキャプテンの鵜殿三郎は相談相手として適当なのですが、女性の微妙な心理までは理解できないようです。鵜殿の方では阿美がなんとなく好きなのですが……
 友だちの家庭問題には進んで口だしをしていた阿美は、自分自身にとんでもない運命がまちうけていたのを知らなかったのでした……
    作 者 あ と が き よ り
 1949年から52年まで、あしかけ4年にわたって私はNHKの放送劇「えり子とともに」を書きました。あの作品を書いた当時は、終戦後の混乱時代で、若い人たちの間に、いわゆる「戦後派」が横行していました。これに対するレジスタンスの意味から、私はえり子という人物を創りだしたのです。
えり子は古典的な均整のとれた静かな女性です。どちらかというと、懐古趣味的な女性です。これがあの当時の私自身の夢だったのです。
 この小説「帆柱」の主人公御厨阿美は、えり子とは違って、均整がとれていないところに、魅力のある女性です。自分のなかに矛盾するものを沢山もちながら、それと戦って生きていこうとする女性です。これが、いまの私の夢なのです。
 なによりも私は、いきいきとした魅力ある女性が書きたいのです。もはや、えり子の時代のように、古典的静けさだけで満足していられるときではありません。積極的に、この重たい世の中を生きぬいていく、強じんな魂と肉体の持ち主でなければなりません。……そういう私の一つの理想像を、御厨阿美のなかに創りだしたいのです。
 この小説は、これで終わりではありません。あとが続いています。私はきょうも、この続きを書きつづけていますが、はたして御厨阿美が最後にどうなるか、ということは私自身にもまだはっきりはわからないのです。
 人物ができあがってしまうと、この人物に事件をぶつけていくのが作者の仕事になります。作者である私は、さまざまな事件を阿美の周囲に創りだします。それを阿美がいかに裁いていくか、……むこれは、作者の私よりむしろ、主人公の御厨阿見なのです。
 彼女といえども人間ですから、欠点があります。あやまちを犯すことがあります。私は完全な人間というものを好みません。完全無欠であれば、努力をして、自分を高める必要がなくなってしまうからです。自分の欠点ゃあやまちを正しくのりかえていくところに、人間としての美しさが出てくるのではないでしょうか。
 阿美は、一般の若い女性よりも遥かに複雑な家庭に育ってきました。この不幸を阿美がどう解決してのりこえていくかが、この小説のテーマです。

「帆柱」というのは、陽のあたる青い海に、真白い帆を一ぱいにふくらませて走っていく舟の帆柱です。……あれがわたしには若い女性の凛々しい姿の象徴のように思えるのです。帆柱とは、ここでは御厨阿美のことです。
 続けて次の巻を読んで下さい。

  1959年2月
内 村 直 也


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