表 紙 説 明
YOUNG・シリーズ E53
書 名:小説 沖田総司
著 者:若桜木 虔
カバー絵:東 幸見  さし絵:大道寺 鉄(植木金矢)
初 版:S52.09.15
備 考:表記なしのYOUNG・シリーズ
2007/02/07空想少年さんより挿絵の大道寺 鉄氏が植木金矢氏であるとの情報をいただきました。
植木金矢氏は戦後時代劇ポスターの第一人者として、また少年雑誌、挿絵などで時代をつくり、今なお日本画家として活躍されており2004年1月には新撰組に関する本も出されています。
あ と が き よ り
 私はこの物語で、単なる沖田総司伝というよりは、総司の眼を通して見た幕末の若者群像、といったものを描きたいと思ったのだが、そのために数多くの人物が登場しすぎて、一人一人の人物描写となると、残念ながらどれも中途半端に終わってしまったようである。〈中略〉
 いずれ機会があったら、書き落としたエピソードや、池田屋事変以降の滅びゆく新選組についても、筆を執ってみたいと思っている。
あ と が き よ り
    ── 悲運の天才剣士、沖田総司 ──
 総司は〈人斬り沖田〉の異名で知られ、若くして労咳で倒れたにもかかわらず、日本の歴史上、最も多くの人間を斬った人物、とされている。
 しかし、単に天才剣士と言われても、ちょっとその強さは、想像することができない。新選組の中で、剣の強さの序列は、一が総司で、近藤勇、永倉新八、斎藤一、の順だった。この内、斎藤一は、明治維新の後まで生き残って、藤田五郎と名前を変えて警視庁の警視庁の警部となり、東京高等師範学校(今の筑波大学)の剣道師範となった。
 この斎藤は、4段、5段、という高段者が、4、5人で一斉に斬りかかって、肌をかすめることもできないほどのすさまじい強さだった、という。その斎藤が、総司と立ち合っては、赤ん坊の手をひねるように、あっけなく打ち負かされた、と永倉新八が回想している。
 総司の剣は、想像の域を絶した強さだった、としか言いようがない。
 この物語には、新選組以外の剣客として、清河八郎を斬って見廻組の組頭となり、後に坂本龍馬の暗殺にも成功した、佐々木只三郎が登場する。この佐々木は、狙った人間は必ず仕止める、幕末随一の暗殺の名手、言われた剣の達人だったが、純粋の剣の腕では、やはり、若くて天才の名をほしいままにした、総司の右に出る者はいなかったようである。
 こういった面があった一方で、ふだんの総司は子供が好きで、いつもニコニコと明るく、よく子供達と遊んだという。新選組に宿を提供した八木家の三男坊で、よく総司に遊んでもらった八木為三郎が、昭和に入るまで長生きして、そのことを物語っている。
 総司は、両極端の二面を持った、全く不思議な剣士だった。