表 紙 説 明
秋元文庫映画化シリーズD2
書 名:朝な夕なに
原 題:Immer wenn der Tag beginnt
著 者:ヘルダレック
2007/11/26通りすがり様より
     George Hurdalekの表記よりカナ表記とするなら
     フルダレックでは、とのご指摘もいただいています。
訳 者:若城希伊子
初 版:S48.10.30
備 考:B6判あり 秋元書房ジュニア・シリーズ53
     映画「朝な夕なに」(1957年・ドイツ)の原作
     主演:ルート・ロイヴェリック
     監督:ヴォルフガンク・リーベンアイナー
 試験勉強の過労がたたって、クラス委員のハンスは死んだ。新緑の墓地に、ハンスが好きだった真夜中のブルース≠フ調べが、クラスのバンドによって高く低く流れていった。雨上がりの空はどんよりとたれこめ、人の命のはかなさと、むなしさをよりいっそう感じさせた……
青春の喜びとと感傷を高らかにうたいあげた感動の名作
    主 要 人 物
ハンナ・ブルクハルト ―― この物語の女主人公。ドクトルで9年制男子高等学校であるシラー高校へ、数学、物理担当の教師として赴任して来る。美しくて人間味豊かで、教育への情熱の持ち主。
マルティン・ウィーラント ― シラー高校の最上級生。ブルクハルト先生と同じ家に下宿して先生に思慕の情をかたむける。詩人で夢想家のトランペット奏者。
ハンス・クラインシュミット ― シラー高校最上級生。ウィーラントの親友。クラス委員としてあらゆる意味でみんなの中心となっている。ドラムを得意として、生徒たちの編成するジャズバンドの指揮もする。
コルネリウス ―― シラー高校校長。40で校長になったが、いまだに独身。
ワルター・ローマン ― ハンナの大学の時の同級生。ハンナのもっとも親しい友人
ウェヒター ――― シラー高校副校長。
ウェルマン ――― シラー高校、最上級生の一人。
クレマン ―――― シラー高校、最上級生の一人。
クラインシュミット夫人 ― ハンスの母。
ウィーラント夫人 ― マルティンの母。
リヒター老嬢 ――― ハンナとマルティンの下宿している家の主人。
   巻 末 訳 者 解 説 よ り(抜粋)
この物語は、ハンナ・ブルクハルトという若く美しく情熱に燃え立つ先生が、男子ばかりの高等学校へ、たった一人の女子教員として赴任して来るところから始まります。
 ハンナはそこで最上級生に物理と数学を教えるのですが、そこでさまざまな人間的接触が生れ、大人の側にも、子供たちの側にも放っておけないような人生問題が生じるのです。
 男子9年制高等学校の最上級生というと、ちょうど満18才から19才というところ、日本でいえば大学の1年になるかならぬかの年頃に当たります。そしてその頃の年になると、大抵の人が、よく意味のわからない不安におそわれ、孤独を知るようになります。ハンナがこのシラー高等学校に赴任してぶつかった最上級生の生徒たちも、ちょうど、そのような微妙なニュアンスをもった人生の途上にあったのです。
 偶然のことから、ハンナと同じ家に寝起きする運命をもつ、マルティン・ウィーラントという青年によって、ここではそういう青春の悩みが代表されていますが、夢と現実とが自分の中で分かち難く考えられる青春の年頃、青年たちは、たった一人の美しい先生の登場によって、自分達のそれぞれの心の中におこる微妙な変化を味わうのです。
 若い人たちの素直な心に、豊かな人間性をもつハンナの一挙手一投足が投じる精神的影響が、打てばひびくような結果として、いろいろな形をとって、ついにハンナのほうへも戻ってきます。
 人間関係はどこまでいっても、1+1=2では解決が出来ません。若い人たちの友人になり、その人たちの心を心として新しい教育の理想にもえるハンナの夢はなかなか実現出来ません。子供たち一人一人の個人的感情を満足させようとすれば、必ず学校の規律に触れ社会的秩序の障害にぶつかるのです。
 そういうハンナ・ブルクハルトは、生徒たちにとっては一つの光りであり、知・情・意を兼ね備えた理想の女性の権化であったに違いありません。しかし、そのハンナ個人にも、謎のような魅力を感じてしまう校長や、友人との間で、やはり人間として、女としての、さまざまの生き方についての悩みが生じます。
 この物語では、何がどうだからどうすべきだという人生の解決は少しも明示されておりません。
 先生と生徒たち、すばらしく近代的でモダンな校舎をもつ一つの学校内の生活を通じて、僅かな間におこるさまざまの事件が、人によってどのように違ったうれとられ方をしてゆくものか……。ここで重大なひとは、はっきりと大人の問題と、若い人たちの問題とが別だということなのです。
 初めて孤独を感じ、恋を知ると同時に、それを失わなければならなかったマルティン・ウィーラントに、ハンナは恋することは恥ではない≠ニ断言します。そして、そのハンナ自身、愛についての確信を得られずに悩んでいるのです。
 人と人とが生きものとして触れあう時、さまざまの人間関係の中に、火花を散らすような複雑な感情を味わいます。
ここでは、それが一つの学校という社会の枠の中に限定されるのですが、青年たちはそれぞれの人生の成長のプロセスとして、不安に襲われ、孤独を知り、大人たちもまた、自分たちの人生を精一杯生きようと努力するのです。
 ただ、青年たちが明るく美しい一人の輝かしい女性を知ったということ。また、その女性が精一杯に若い人たちの力になろうとしたこと、それはすばらしいことではないでしょうか。
 人間と人間とのふれあいの中に、しみじみとした暖かさ感じさせる何かが、その底にあったということ。それはすばらしいことではなかったでしょうか。
 この物語はヴォルフガンク・リーベンアイナー監督によって映画化され、ハンナ・ブルクハルトには、名優ルート・ロイヴェリックが主演しています。
 主題歌には真夜中のブルース≠フ旋律と共に、現代の若い人たちの心をとらえずにおかない名演技です。
 いつの世にも、どこの国にも、青年たちを訪れるあの青春の悩みと歓び、若い人たちの光りとなり、朝の太陽のように、微笑みかけるハンナ・ブルクハルトを、あなた方の周囲に探し出すことは出来ないでしょうか。
若 城 希 伊 子